【連載】大江千里の50をハタチと数えたら #2

2017年05月03日
大江千里コラム_#2_423

Just a little wine
ワインに関するいい話。

ジョンヘンドリックス氏が僕のメロデイに書き下ろしてくれた詩の一節。

葡萄を植えましょう 
そしてその種を明日のために
そっととっておきましょう
それは神聖な「神様からの贈り物」
グラスに注いでみましょう
ほんの少し
少しのワインでいい
聖書をきみは読んだことがある?
その液体は
体に溜まった痛みや疼きをそっと和らげてくれる
人はみなワインを飲めば癒し人になれる
「汝を癒し己の安楽たるを知る」とね

ワインを楽しむようになったのはいくつから?うれしい時悲しい時いろんなワインを飲んできた。昔は1本平気で飲めたが、今はグラスで2〜3杯。ところが楽しみは減るどころか増えていく。トトトト、グラスに注がれる最初の音。まだ固い香りが 愛おしい。それが空気に当てると広がってグッと濃厚で晴れやかなものに。イメージは例えば犬の肉球だったり夏の枯れ草だったりチョコレートっぽかったり、様々な形容詞が似合う。

空気に当て、手の平で回して、光と影を口に含む。そこには作り手のイズムやこだわりが広がるようで楽しい。聞けば聞くほど深くて楽しくなるジャズとどこか似ている。

トスカーナのアンティノリというワイナリーに行った時、どこまでも広がるブドウ畑が目に眩しく、毎年天気に左右されながら自然の力に添いながら地道に作るその行程を見学し感動した。一通り回って説明を受けた後に味わうワイナリーお薦めの赤と白はどこか人懐っこいやんちゃな味がした。

小さな家族経営のワイナリーほど親近感がある。目の行き渡る距離で心を配り丁寧に作られたワイン。太陽の光があり雨の日があり風が吹き葡萄が実る。それを讃えるように注意深く摘んでゆく。そこには人の諦めない意志とチャレンジのプロセスがある。

僕はオーパスワンやオルネライアだけがおいしいワインだとは思わない。1本8ドルのワインにも作り手の熱い気持ちを感じられる。おそらく思いとは裏腹な味になって出荷を余儀なくされたものもあるだろう。そこには知識やセオリーがあってもなお自然との集中力を要するセッションが繰り広げられるわけだ。一つとして同じ味はないそれぞれが唯一の宝物。

ジャズにもそんな顔がある。中西部ツアーはソロピアノ。一人で育てた葡萄からできたソロピアノという変幻自在なワイン。家族で、子供と一緒に、恋人同士で、ご夫婦で、ぜひいらしてください。

さあ 心と体に小さな休息をあげよう
人生にくたびれてどうしようもなくなったときに
胸の痛みに掌を当て首を少し傾げ肩を揉む
そんなときに
ほんの少しのワインでいい
そうすれば明日までそう 明日までは
もう何も心配しなくていいんだよ
ほんの少しのワインでいい
お願いだから

「Just a Little Wine」By Jon Hendricks, Senri Oe

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<大江千里(Senri Oe)>
47歳でジャズの音楽大学に入学、51歳で卒業、その年に自身のジャズレーベルを設立して、ニューヨークのブルックリンを拠点に4枚のアルバムをリリース。精力的に世界をツアーするピアニスト大江千里が中西部にやって来る。
「50をハタチと数えたら」は、50歳−30=20歳という筆者の頭の変換図式で、現在56歳-30=26歳という。2度目の「大青春」を泣き笑い謳歌する筆者がANGLE info読者に独占お送りする「抱腹絶倒」で「ほろり」とする「いい話」を10話お送りします。

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