~ILLINOIS REPORT~Takashi Murakami(村上隆)「タコが己の足を食う」展示会訪問@MCA

2017年12月14日
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2017年9月 Takashi Murakami(村上隆)展示会訪問@MCA

アメリカの若い方たちから、アメリカ在住の芸術家Takashi Murakamiのことを聞いた。
*素晴らしい
*神秘的だ
*圧倒された
*気味が悪い
こんな感想を引きだすTakashi Murakamiを知らないままにしておくわけにはいかない。いったいTakashi Murakamiとはどのような芸術家なのか。

<はじめに>
近所に住む私の生徒が個性的なTシャツを着ているので尋ねてみると、「MCA(シカゴ現代美術館)でTakashi Murakamiの展示会が開催されていて、そちらで買いました」と答えた。おまけに「私の父はMCAの館長です」と聞き捨てならないことを付け加えた。そして、彼の父親から、私をぜひ招待したいとのメールを頂いたが、その日はあいにく都合がつかず行くことができなかった。しかし、「村上隆」という日本人画家のことは、若い学生たちから聞いたことがあるので、館長には会えないが、日本まで行かなくてもシカゴで村上氏の作品を鑑賞できるとあれば、この機会を逃がすのは惜しい。展示会の終了が迫った9月末、主人と一緒に訪れることにした。

<MCAの場所>
シカゴには日本総領事館があり、道路を挟んで4階建ての大きな建物が見える。それがMuseum of Contemporary Arts(MCA)だ。私はこれまで数回訪れたことがあるが、今回は意外な展開で村上氏の展示会を鑑賞することになった。
<展示のテーマ>
会場に立ってみると、正面には、上からのしかかってくるような巨大な壁があり、海の波のような絵で覆われている。よく見ると、波には無数のイボが付いている。どうやらタコの足のつもりらしい。今回の展示会のテーマは“The octopus eats its own legs(タコが己の足を食う)”であり、タコの足は今回の展示のシンボルだ。タコが自分の足を食べて生きていく、とはどういうことなのだろうか。ちょっと考えただけでは想像がつかない。

<村上隆氏とは>
氏のことはほとんど知らないので少し調べてみた。1962年に日本で生まれ、成長し、アニメーターを志し、宮崎駿監督に憧れたが、挫折をして、以前から興味のあった日本画を習い、東京芸術大学に入学。大学卒業後は同大学院に進み、博士号を取得。博士論文は「美術における『意味の無意味の意味』をめぐって」というタイトル。伝統芸術に対する氏の宣戦布告のようだ。現代のマンガ、アニメーションのようなポップカルチャーと日本の伝統芸術の統合をはかろう、ということを生涯のターゲットとしたらしい。
伝統芸術の枠からはみ出すのであるから、当然、批判は続出。怒り狂うライバルも現れたようだ。1994年NYで個展を開き、それ以来NYにも拠点を置き、芸術家としての活動を開始。ビジネスにも着手し、会社を起こして広告を担当し、アイコン入りのシャツなどを販売。その会社の名前が「カイカイキキ」、「怪怪奇奇」つまり「奇怪」ということだ。東京芸術大学大学院出身の博士だから才能の方は保証付きだが、氏の発想は「奇奇怪怪」なのか。日本もアメリカも世界も、氏の才能に良い意味で振り回されそうだ。

<展示I 2011年まで>
MCAの4階フロア―の全てが、氏の作品で埋め尽くされ、年代も記されている。作品の第1の特徴は絵のサイズ。とにかく大きくて、背が高い。天井に届くほどの作品であり、巨大と言った方があたっている。
第2の特徴は圧巻の迫力。ただ大きいだけではなく、上から圧倒してくる。氏の作品は詳細な描写の積み重ねであるが、完成された作品はその大きさと共に、強いインパクトを与える。
第3の特徴はアニメーションやマンガからの影響。ある作品では、巨大な“ドラえもん”が飛び跳ねている。しかし、私たちが知っている“ドラえもん”とは違って、氏の描く“ドラえもん”は大きな耳が付いている。“ドラえもん”よりも妹の“ドラミちゃん”に似ている。でも“ドラミちゃん”の耳は三角形だが、氏の“ドラミちゃん”の耳はまん丸だから、別のキャラクターにも見える。確かに、氏はマンガやアニメーションの影響を受けているようだ。似たような絵が次々と現れ、見る者の目を楽しませてくれる。小さなアニメーションの顔が一面に並ぶようなデザインを背景にして、大きく描かれたアニメーションの主人公が飛び跳ねているようだ。
第4の特徴は色。原色を使い、じつに色鮮やかだ。そして、イラストの絵のどこかに三つの文字D、O、Bが見られる。これは氏の雅号の一つらしい。彼は自分をМr. DOBと表現する。日本のあるマンガの中で、困ったときに”Dobojite, Dobojite”と叫ぶ主人公がいる。「どうして、どうして」と言うところを「Dobojite, Dobojite」と言ったのだが、もちろん意味は「どうして、どうして、Why? Why?」だ。これを自分の雅号にしてしまったのであるから、ずいぶんマンガ的な発想だと思うが、氏の博士論文のタイトルである「意味の無意味の意味」から由来しているのかもしれない。

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<作品制作の過程>
氏の作品はどれも天井に届くようなサイズで、どのようにしてこんな巨大な作品を描けるのか、という疑問がでてくる。それを予期しているかのように、あちらこちらで作品の制作過程をビデオで紹介している。氏は10人ほどの助手と共に、部分ごとにかなり大きなパネルの上に作品を書き上げ、それを組み立てて一つの作品に仕上げる。氏がチームの頭(ヘッド)になり、訓練された助手が氏の手足となって描き上げ、色付けも行われる。
<展示II>
明るい原色を使ったアニメーションのような巨大な絵が、若い世代に人気があることは分かる。ところが2011年3月11日から突然、氏の作風が変わっていく。それはNYに住んでいた氏が東日本大震災のニュースをテレビで知り、日本が沈んでいくのではないかと心配するほど驚愕的な災害が起こったからである。国が滅んでしまったら日本の芸術など意味が半減するかもしれない、氏は作品を通して被災者たち、特に死者の魂を慰めようと沈思黙考したらしい。
氏は、曽我蕭白(1730-81)という画家に注目する。氏の展示会でのビデオでの解説の中で、「そが・しょうはく」と言う言葉が何度も出てくる。曽我蕭白とは、18世紀半ばに活躍した日本画の画家であるが、同時代の日本画家である、円山応挙(1733-95)の方が一般的には知られているだろう。蕭白の絵は大胆な構図で鮮やかな色彩を用いて、強烈な不安定を生み出し、見る者を魅了したり、おののかせる、と言われ、奇抜な系譜に属し、異端とか奇想の画家などと評価されている。氏の作品の印象は、まさにこの評価と一致する。
氏は、大震災で亡くられた方への鎮魂の思いを作品に表現しようとした。同じくビデオでの解説の中で、「アルハット」という言葉も何度も用いたが、これはサンスクリット語で、中国訳では「阿羅漢(あらかん)」となる。阿羅漢は真理を悟った人という意味で、仏の弟子のことである。有名なのは16羅漢、18羅漢、さらに500羅漢と言われ、絵に描かれるようになる。
大震災の被害者を羅漢に見立てて描いた氏の作品では、多くの骸骨が背景に描かれていて、グロテスクな印象を受ける。極楽から光が差し、地上を照らし、さまざまな羅漢が描かれ、漫画家の水木しげる氏の妖怪ワールドを思わせるような雰囲気である。しかし、バックグラウンドの違うアメリカ人には、これらの作品がどのように映るのか興味がある。
ある一枚のイラストの背景は金色なので極楽の色に見えたが、作品に近寄って見てみると、いちように金色に見えたのは、一つが2インチぐらいの骸骨の形をしている小さなピースで、それを何千枚もちりばめていた。そして、極楽、羅漢のイラストが続々と続き、村上氏の卓越した集中力と執念を強烈に感じた。
極めつけは最後の部屋だ。直径3メートルぐらいの大木の根と10メートルほどの幹の像が建ち、原色に塗られているので、ひときわ強烈な存在感を放っている。いったいこれは何の像なのか、と首をかしげる。うす暗いため、最初は見えづらかったが、目を凝らして見ると、1本1本の根にはイボがついている。ああ、これはタコの足だ、すると大木に見えるのはタコの胴体なのだ、と納得する。しかし大きすぎるので、タコの頭がどうなっているのかは分からない。なぜ彼はここまでタコにこだわるのか。この展示会のテーマは「The octopus eats its own legs」で、タコだった。
氏は、タコが自分の足を食べて生き延びるように、自分も日本の芸術の伝統も古い自分も切り捨てると、そこから新しい芸術が生まれていく、ということを伝えたいのではないだろうか。
古いガソリンエンジンと電気のモーターを組み合わせると、ハイブリッドカーができる。日本の国技である相撲も、モンゴルなど他国出身の力士が加わってインターナショナル相撲となる。古い伝統芸能の能楽も、英語でやれば英語能楽となる。良いところを取って合併して新しいものを作り上げることが世間の傾向、つまりトレンドの時代だ。日本の伝統を破って新しい風を吹き込もうとする氏の考えは、別に不思議なこととは思えない。これが「タコが己の足を食う」という謎めいた表現の意味だと分かった。

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<あとがき>
最後の部屋に入ると、訪問者たちに挨拶をしているアメリカ人の紳士が目にとまった。ずいぶん背が高くて目立つ、その紳士の顔を見ると写真で見た顔だ。彼こそ、私の生徒のお父さんだった。思いがけない出会いに感謝し、ほかの訪問客の邪魔にならないように挨拶をした。なんでもMCAのChief curatorであり、博士号を持っている学者さんだが、私には生徒の父親の顔で挨拶をしてくれた。
MCAを後にして帰途についたが、村上ワールドの毒気にあたったのか、疲れきってしまった。MCAの中で一人の若い女性に感想を聞いたところ、「素晴らしい、もう4回もこの展示会に来ているの」と言っていた。やはり村上ワールドは若い人々を魅了する毒気の力がすごいのだ、と感服した。私ももう一度訪れたい、と思って日程を調べると、10月からボストン、来年1月からローマ、その後はモスクワと決まっているそうで、いまや人気絶頂の「世界の村上」だ。シカゴで見ることができたのはラッキーだった。大学で、「村上隆」のTシャツを着ている学生に会うと、氏の作品を思い出す夏の日々だった。

文、写真:安納恵子

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