【連載】小川夫婦の地球千鳥足 第271回 濁流の真ん中で船を揺さぶり「1000バーツ!」~タイ王国~

2017年12月08日
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濁流の真ん中で船を揺さぶり「1000バーツ!」~タイ王国~

 午後のバンコク。私は「暁の寺/ワットアルン」を見たいと船着き場を探した。王宮側からはチャオプラヤ川を渡らねばならない。とある商店街で尋ねかけたが英語が通じない。そのとき高校生ぐらいの青年が走って来て、「私がお連れしましょう」と言った。彼は途中、寺院を見つけるたび、「ちょっと待ってください」と深い祈りを捧げる。敬虔(*1)な仏教徒のようだ。

 船着場ではこれまた英語の話せない船頭に値段を交渉してくれて、「往復100バーツ(当時300円ぐらい)でどうですか」と聞いた。「OK」と私。彼はそれで帰ると思ったら、「私、日本語を教えてもらいたいのでお寺を案内します。将来日本の企業に就職したいのです」と一緒に乗り込んだ。船で彼は「チュラロンコン大学1年生のチャイ」と名乗り、暁の寺では私の写真を撮ってくれたりと、サービスこの上もない。さて、元の王宮側に戻るはずの船はなんとチャオプラヤ川の支流へと舳先を変えさかのぼり始めた。「日本の元小泉総理大臣、が寄付したワットパトゥムターニー寺へ連れて行ってあげます。ツーリストは誰も行かないお寺で、大勢の僧侶の訓練が見られますよ。」とサービス精神旺盛だ。遡航中も青年は写真を撮ってくれ、通過する岸辺の寺院には深い祈りを捧げる。貸切船の快適さ。「往きはよいよい、帰りは…」などとは露疑わない私。

 通称小泉寺の僧侶の訓練には胸を打たれた。青年チャイは私に紙に包んだ金箔を3枚くれて、「2枚は仏像に貼り付けてお祈りしなさい。1枚は財布に入れるとグッド・ラックですよ」と言う。私が無造作にバッグに入れたら「財布に入れると効果があるんです」とこだわったが、私は財布に金箔を入れることには関心がなかった。

 小泉寺の近くの食堂でチャイは「ちょっと休んでいきましょう」と海鮮丼、ビールやフルーツを頼んだ。「おなかをこわしているからいただきません」と断ると、「ここのものは絶対大丈夫」と少々強引だ。私は本当に下痢をしていたので食べたふりをして配膳台に戻したがかなりのご馳走であった。「お礼に写真を撮って送ってあげるわ」と私が言うと、「今日は聖なる日で仏教徒は写真を撮れないのです」とチャイは言った。「じゃあこの食堂のおばあちゃんと撮ってちょうだい」と、ここでも私は邪気がなかった。
 帰りの船も快適そのもの、だが、チャイは船着場で「1000バーツ!(約3000円)」と言ったのだ。物価の安いタイにしては高い。
「200バーツしかないわよ。あなたは往復100バーツと言ったでしょ?」
「暁の寺と小泉寺の前で1時間ずつ待ったからその待ち時間代が入っているそうです」とチャイが説明しているうちに船は岸を離れて濁流の真ん中へ。

 いつの間にやら夕暮れとなり、辺りに船の影もない。船頭はチャオプラヤ川の真ん中で船を揺さぶり、掴みかからんばかりに興奮してチャイに現地語でわめいている。「払えない客を連れて来てどうしてくれるんだ!!」と言っているようだ。彼は怯えた表情で船頭に詫びつつ自分の時計を手渡し、私に「本当にもう少しお金、無いのですか」と悲しそうな表情で私のバッグを覗き込んだ。私は102ドルとその日の持ち歩き分1000バーツを見られてしまった。チャイは「これを渡しましょう」と小さい2ドルは残して100ドルと1000バーツを船頭に。「ああ、ホテルに帰るお金がないわ」と私が泣きそうな顔をしたら船頭が100バーツ返してくれた。

 陸に上がった途端チャイは横っ飛びに消え、突然にすべてを悟ったおばさんがぽかんとそこに立っていた。睡眠薬入りのご馳走に舌つづみを打ち、濁流のただ中にプッカプカしていたかもしれぬ、察しの悪いおばさんが。

*1けいけん 【神仏などを深くうやまいつつしむさま。大辞林 第三版より】

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チャオプラヤ川
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左:「ツーリストは行かない寺」とチャイが言った通称小泉寺、右:小泉寺の内部

文:小川彩子

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筆者プロフィール
<小川律昭(おがわただあき)> 74歳
地球漫歩自悠人。「変化こそわが人生」をモットーとし、「加齢と老化は別」を信条とし、好奇心を武器に世界を駈け巡るアクティブ・シニア。オハイオ州シンシナティと東京、国立市に居所を持つ。在職中はケミカルエンジニア。生きがいはバックパックの旅と油絵。著書は「還暦からのニッポン脱出」「デートは地球の裏側で!夫婦で創る異文化の旅」。

<小川彩子(おがわあやこ)> 68歳
教育学博士。グローバル教育者。エッセイスト。30歳の自己変革、50歳過ぎての米国大学院博士過程や英・和文の著書による多文化共生促進活動は泣き笑い挑戦人生。「挑戦に適齢期なし」を信念とし、地球探訪と講演・発表の日々。著書は「Still Waters Run Deep (Part 1) (Part 2)」「突然炎のごとく」「Across the Milky Way: 流るる月も心して」ほか。
【HP】http://ogawaa.web.fc2.com/
【ブログ】http://blog.goo.ne.jp/ogawaa

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