【連載】男親の視点 空手道場から押忍!「スタミナ」

2017年05月15日
士道館_650-423

スタミナ

自分は練習大好き人間だ。昔は立派な施設などなかったので、みんなコンクリブロックを両手で持って走ったり一輪車に石を積んで坂を上ったりした。大木を正拳でたたき、回し蹴りでスネを鍛えた。タイマーもないので組み手は時間制限無し。相手が音を上げたら次々に交代して続けた。これを人に言うと聞き違いかと思うらしく何度も聞き直されるが、普通に毎日やっていたことだ。

35年ほど前25歳の頃、日蓮宗総本山身延山近くで合宿があった。急勾配で有名な287段の石段で競争し優勝した。平地ではかなわないが足腰の強さとスタミナには絶対の自信があった。金のない頃で賞金の3万円もうれしかった。

しかし、プロの格闘家を目指す全員が練習好きとは限らない。身延山合宿では広大な山中を走るトレーニングがあった。スタート直後にばらけるとゴールまでだれにも会わない。自分との戦いだ。上りはきついが下りはもっときつい。舗装してないので足元にも注意が必要だ。しかし、自分は単純でしんどい練習が大好きだ。理由はうまくいえないが、たぶん寿司を好きなのと同じで理由などないのだ。麓に下りてくる頃には汗で目がまっ赤になりそれをぬぐってふと見ると、追い越してゆくバスに後輩連中が乗っているではないか。驚いて後から問いただすと出発前にバス賃を握ってゆくという。私に呼び出されてビビったのか「タバコ持参の先輩もいます」と余計なことまで口走っていた。スタート直後にふけて一服してからバス乗車とはあきれた。私はそいつらに一言注意したがそれまでだ。自分が強ければチャンピオンになれる。やる気のないやつは放っておくだけだ。

さらにインテンシブな秩父合宿では25名いた参加者が一人また一人と消えていった。最後はコーチと自分だけになり「松本、根性あるな」と褒められた。そして練習はますますきつくなり、しまいには山道をジープで追いかけられながら走るという常軌を逸したレベルまで到達し秩父合宿は終わった。ちなみにこの時の脱落者が再び士道館に戻ることはなかった。

こうして身につけたスタミナで私は、日本で4回、アメリカで4回の計8回優勝を手にした。自分は現在60歳だが、週6回2時間のトレーニングに励む。基本だれもいない道場でやるので光熱費は節約する。夏はドアを開けても90度越えのこともあるし、冬は夕刻40度の真っ暗な中でマシンを使っていることもある。あるとき妻に「それの何が楽しいの?」と聞かれ「グッドクエスチョン!」と答えた。ただ一つ言えることは、人と同じ事をしていたら自分に8回の優勝はなかった、ということだ。他と変わっていると煙たがられるご時勢ではあるが、何かを成そうとしたら初心貫徹しかない。

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<松本保則>
格闘技歴50年、指導歴40年の元日米チャンピオン。20年前にシカゴ郊外アーリントンハイツに「士道館」道場を構える。趣味は愛犬の散歩。

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