【連載】大江千里の50をハタチと数えたら #6

2017年05月11日
大江千里コラム_#6_423

Spooky Hotel
中学の同級生Tomとの抱腹絶倒のNY再会のいい話。

朝のジョギングの途中に、草がぼうぼうに生えた寂れた家の敷地の前を通る。まるでホーンテッドマンション。窓ガラスが割れて木の板で侵入を防いでいる有様。しかし歴史と表情を感じさせる魅力的な建物で気にはなっていた。2枚目のアルバム「Spooky Hotel」のジャケット撮影にぴったりなのではと撮影隊を連れて行くと、これはいい!早速ゲリラ撮影しようということに。天空を突き刺さんばかりの槍状のフェンスを、僕一人で乗り越え敷地内に侵入。フェンスの外でカメラマンのトムがレンズを構えている。目立たない方がいいということで、デザイナーたちは車の中で固唾を飲んで二人を見守る。

トムは僕の古い友人、中学1年2年のクラスメートで、今は大企業のれっきとした駐在員サラリーマン。当時はテニス部で成績優秀な生徒だった。ある夜トミジャズで演奏を終えてバーにいると、肩をポンと叩かれたので振り向けば、あの日と変わらないトムが立っていた。「え、なぜ?」僕は当然そう叫ぶ。その再会の日以来40年ぶりの2人の異国での同窓会が始まった。彼には車があるのでロングアイランドのビーチやアップステートの森への遠出もできた。写真やビデオ撮影を趣味でやっていることを知り、見せてもらうとなんとも緻密で雰囲気がある。早速トミジャズのライブを定点カメラで撮ってもらったり、土日にアーティスト写真をお願いしたりする。彼は会社勤めなのでギャラは一切受け取らず、僕は食事をごちそうしたりしてバランスを保っていた。

これだけ長い間、別の人生を歩んできてニューヨークという異国でばったり会うとは、人生ってわからないものだ。このゲリラ撮影、お互い羽目を外せなかった当時をもう一度やり直してるような、おかしさとリベンジ感でスリル満点だった。敷地内の僕が親指を立ててこっちはオッケーと伝える。歩道側のトムも親指を立ててラジャーと返す。バシバシ撮りまくること数分。トムがようやく大きな丸を頭の上で作った。よし逃げろ!僕は急いでまたフェンスを乗り越え歩道に戻る……。その時の写真が無事にSpookyなアルバムカバーとなったわけだ。相手がトムでなければ、危険を冒してフェンスをよじ登り撮影などしなかったかもと思うと、なんという奇妙な出来事であろうかとつくづく思う。

夢のように楽しい時間はあっという間に過ぎ、ある日トムから帰任することを聞かされる。僕とトムは時間が止まった古いホテルに迷い込んでいたのかも。トミジャズで会ったチェックインのあの日から、彼が帰国するチェックアウトの日まで。古ぼけた廊下のギシギシ軋む音を聞きながら、恐る恐る順番に部屋のドアを開けて冒険を繰り返す。トムは僕に中学のアルバムをコピーして持ってきてくれた。写真はセピア色で、その集合写真の中の僕はメガネザルのような顔で澄ましている。ブラスバンドでクラリネットを吹いていた頃。僕からトムへの餞別はネクタイにした。本業で使えるものに。

今もトミジャズで演奏をしている時、ふとトムがいつもの席でカメラを構えて見守っている姿が目に見える時がある。今も日本とアメリカでメールのやり取りが続いてはいるが、いつかあのアルバムジャケットを撮影した家のようなSpooky Hotelなバーで待ち合わせ、あの後の互いの人生を再び語り合ってみたい。

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<大江千里(Senri Oe)>
47歳でジャズの音楽大学に入学、51歳で卒業、その年に自身のジャズレーベルを設立して、ニューヨークのブルックリンを拠点に4枚のアルバムをリリース。精力的に世界をツアーするピアニスト大江千里が中西部にやって来る。
「50をハタチと数えたら」は、50歳−30=20歳という筆者の頭の変換図式で、現在56歳-30=26歳という。2度目の「大青春」を泣き笑い謳歌する筆者がANGLE info読者に独占お送りする「抱腹絶倒」で「ほろり」とする「いい話」を10話お送りします。

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